1.2 伝統と革新

Apple Watchに関するウェブサイトや技術ドキュメントを見ると、時計文化に敬意を払う表現が多く見られます。

「上質な時計作りの技に対する深い敬意」

「伝統的な機能に、新しい発想を」

「デザインは伝統から飛躍し、独自のものに」

腕時計は時間を知るための道具であると同時に、装飾品としての価値観も持ち、時計業界の成長はこのような価値観と共に歩んできました。腕時計は実用品でありながら、指輪やジュエリーのようなステータスシンボルなのです。

アップルが時計の伝統を大切にする一貫した姿勢は、アップルでデザインを統括するジョナサン・アイブや彼のチームが古くからの時計を深く調査研究し、そのデザインや製法の智恵に驚嘆したからではないでしょうか。

またこのような敬意はApple Watchが既存製品のシェアを奪う立ち位置にいないことも関係しているでしょう。スマートフォンに対するiPhone、ネットブックに対するiPadといったように、これまでのアップルの製品は既存製品の欠点を指摘し、まったく置きかえてしまう市場を形成してきました。

しかしApple Watchに関しては世界中の時計メーカーを敵に回しているわけではなく、1つの時計ブランドとして参入していく姿勢をみせています。腕時計業界にもApple Watchによって腕時計の価値が見直されることを期待している声が多く聞かれます。

伝統的なブランド、機能性で売るブランド、ファッション性を主張するブランドなど、時計文化はユーザーの趣向によって多岐に渡っています。アップルが立ち位置を考えるとすれば、情報をスマートにハンドリングしたい人達に向けての製品を提供するというものでしょうか。ユーザーの手首を奪い合うような泥仕合にはならないと思われます。

パイロットやダイバーの腕時計は、機能だけでなくファッションとして購入されます。性能が必要だからという利用者は少なく、そのブランドが利用者の価値観を代弁してくれるからです。

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